夜、ベッドに入って部屋の電気を消す。
枕元の小さなライトだけをつけて、スマホを置いた。
「今日はもう寝よう」
そう思ったはずなのに、数分後にはまた手を伸ばしていた。
SNSを見て、天気を確認して。
特に用事もないのに、最後に開いたのはLINE。
トーク一覧を眺めていると、ある人の名前で指が止まった。
タクさん。
イククルで出会ってから、少しずつ気になるようになった人。
別に用事があるわけじゃない。
それなのに、今夜はなんだか声をかけたかった。

用事もないのにLINEを開く夜
昼間は仕事をして、帰りに買い物をして、ひとりでご飯を食べる。
そんな普通の一日だった。
ひとりの時間は嫌いじゃない。
休日にカフェへ行くのも好きだし、家でのんびり動画を見る時間も大切にしている。
でも、夜になると少しだけ違う。
お風呂から上がって髪を乾かし、ベッドに入る。
エアコンの低い音だけが聞こえる部屋。
布団が少しずつ暖かくなってきた頃、ふと思った。
「誰か、まだ起きてるかな」
寂しくて仕方ないわけじゃない。
ただ、今日の終わりに誰かと少し話せたらいいな。
そんな気持ちで、またLINEを開いた。
話したい理由なんて、まだ見つからない。
でも、今夜はタクさんの名前が浮かんだ。
誰でもいいわけじゃない
トーク一覧には、友達や昔の職場の人の名前が並んでいる。
連絡しようと思えば、誰にだって送れる。
でも、なぜか指が止まるのはタクさんのところだった。
話していると楽しくて、変に気を使わなくていい。
何気ないやり取りなのに、あとから思い出してしまうこともある。
トーク画面を開く。
最後の会話を少しだけ読み返して、口元が緩んだ。
「……何してるんだろ、私」
ひとりで小さく笑って、スマホを持ち直す。
まだ好きだなんて、はっきり思っていたわけじゃない。
でも、今夜話したい相手を選ぶなら。
やっぱり、タクさんだった。

友達にLINEするのとは、なんだか違うんだよね。
タクさんの名前を見るだけで、ちょっと嬉しくなるの。
タクさんに送るまでの迷い
メッセージの入力欄をタップする。
「今なにしてる?」
たったそれだけ。
なのに、送信ボタンを押せない。
こんな時間に送ったら迷惑かな。
急にどうしたって思われるかな。
何か話題を用意した方がいいのかな。
考えているうちに、指が削除ボタンへ動いた。
文字が消えて、入力欄が空っぽになる。
スマホを伏せて、目を閉じた。
……でも、眠れない。
しばらくして、またスマホを手に取る。
LINEを開いて、同じ言葉を入力する。
「今なにしてる?」
今度は消さずに、画面を見つめた。
用事がないのに連絡するなんて、少し恥ずかしい。
でも、用事がなければ話せない関係もちょっと寂しい。
そんなことを考えていたら、ますます送れなくなった。

「今なにしてる?」を送った夜
もう一度、タクさんの名前を見る。
気づけば、何度も同じトーク画面を開いていた。
「……もう、送っちゃおうかな」
誰もいない部屋で、小さくつぶやく。
送信ボタンの上に指を置いた。
一瞬だけ迷って。
ぽん。
画面に、自分のメッセージが表示された。
「今なにしてる?」
「あ、送っちゃった……」
急に心臓が速くなる。
さっきまであんなに迷っていたのに、送信したメッセージはもう消えてくれない。
スマホを胸元に引き寄せて、天井を見上げた。
別に、特別な話がしたいわけじゃなかった。
ただ、タクさんが今どうしているのか知りたかった。
できれば、少しだけ話したかった。
誰かと話したい夜だったはずなのに、気づけばタクさんと話したい夜になっていた。
そのことに気づいて、また少し恥ずかしくなった。
たった一通なのに、こんなにドキドキするなんて。
送信ボタンを押した瞬間、ただの夜が少しだけ特別になった。
次回、タクさん編 第2話
勇気を出して送った、たった一通のLINE。
送るまではあんなに迷ったのに、今度は返事が気になってしまう。
スマホを伏せても、また画面を見てしまう夜。
次回は、タクさんからの返信を待つエリのお話です。

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